荘銀タクト鶴岡 コロナ対策実証実験-合唱公演を事例として-
2020年7月4日(土) 荘銀タクト鶴岡 大ホール
【演奏】
指揮:柿﨑泰裕
合唱:鶴岡土曜会混声合唱団(45名)
【鑑賞者】
市内の学校関係者
市内の合唱関係者
市内の文化団体
県内のマスコミ関係者
【実施内容】
国内外の音楽団体や研究機関による科学的な調査・実験の結果、及び全日本合唱連盟や全国公立文化施設協会のガイドラインにおいて推奨されている演奏者間の距離を参考に、合唱公演を事例とした試演を行う。また、音楽関係者等の立会いのもと、音楽的見地からの演奏状態の総合的な検証を行う。
【実証実験実施の経緯、及びその趣旨】
ここ荘銀タクト鶴岡の施設利用は、5月11日から段階的に再開しておりますが、国や県、市の方針にのっとり、利用の人数を収容定員の半分以下、また舞台上においても、ソーシャルディスタンスを確保した出演者数での公演実施をお願いしています。
例えば、反響板設置でのクラシック公演の場合、最大70名までの利用としています。ただし、この人数は単純に床面積から計算してのものであり、実際の公演ではジャンルによって演奏者の配置は多様に異なるため、安全対策を講じた上での実際の公演イメージを想定することは困難であると考えられます。また、特に合唱公演では、飛沫拡散のリスクが他の公演形態よりも高くなってしまうため、コンサートを開催したくても、なかなか踏み切れないような状況にいる音楽団体が多いと推察されます。
そこで、合唱というジャンルが当館での利用が多いということもあり、市内の合唱団に協力を依頼し、合唱公演を事例とした実証実験を開催する運びとなりました。
今回の実証実験では、全日本合唱連盟のガイドライン(6月29日付)や、全国公立文化施設協会のガイドライン(5月14日付、5月25日改訂)にのっとり、演奏者の距離を前後は2m、左右は1m間隔と2m間隔の2パターンで設定、そして、各々マスク着用での歌唱、フェイスシールド着用での歌唱、何もつけないで歌唱といった3パターンでの検証をすることとしました。
今回ご協力いただいた鶴岡土曜会混声合唱団は、創立69年目を迎える合唱団で、団員の年齢層は20代から70代、教員や公務員を中心とした鶴岡市近郊の方々で構成されています。当合唱団は、今年3月中旬から練習を中止し、6月20日から半分ずつの団員に分けて練習を再開したばかりで、大人数での練習はこの実証実験が2回目にあたります。今回の検証で、マスクを外して歌うことへの懸念はありましたが、鶴岡市近郊ではこの2ヶ月感染者が出ていないこともあり、合唱団側と協議の上、リスクは少ないと判断いたしました。
合唱団の方々には、通常のコンサートとは異なる距離感や、マスクやフェイスシールドをして歌ってみた時の所感を、また、立会いの鑑賞者の方々には、各々の場合の見た目の感じや、客席から聴いた時の音の響きの感想を挙げてもらい、検証の材料としました。今回の実証実験が、コロナ禍における公演再開の一助となれば幸いです。
【検証プログラム】
(1)アカペラ曲での検証(使用曲「花さく日々に」作曲:セルミジ、訳詞:皆川達夫)
➀2m間隔(マスク着用)
②2m間隔(フェイスシールド着用)
➂1m間隔(マスク着用)
④1m間隔(フェイスシールド着用)
~ 休憩 ~
(2)ピアノ伴奏付き曲での検証(使用曲「鶴岡市民歌」作詞:保岡直樹、作曲:新実徳英
「大地讃頌」作詞:大木惇夫、作曲:佐藤眞)
➀2m間隔(マスク着用)
②2m間隔(フェイスシールド着用)
➂1m間隔(マスク着用)
④1m間隔(フェイスシールド着用)
~ 休憩 ~
(3)上記3曲を無着用(何もつけない通常の状態)で2m間隔での検証
※安全を考慮し、演奏者間にビニールシートの仕切りを設置
(4)出演者所感、質疑応答
【試演】
全日本合唱連盟のガイドラインに則り、前後の間隔は2m(科学的検証で安全距離とみなされている)で固定して演奏者を配置しました。また、左右の間隔を2m空けた場合、45名の演奏者が6列(舞台前方の列から10名・9名・8名・7名・6名・5名)で舞台全体をほぼ埋める形になるため、ピアノと指揮者は仮設の張り出し舞台上に配置となりました。まず初めに、アカペラ曲での検証です。
[2m間隔・マスク着用]
演奏者からは「呼吸がしづらい」「口にマスクがへばりついたり、マスクが下がってきたりする」「音が飛ばない」などの意見が多くみられました。
また、鑑賞者からは「マスクでこもって発音が聞きづらい」「呼吸が苦しそう」「表情が見えない」などの意見が挙がりました。
[2m間隔・フェイスシールド着用]
演奏者からは「自分の声しか聴こえず歌いにくい」「テンポがわからなくなる」「(反射でぼやけて)指揮が見えづらい」という意見が多く、演奏者の大半にとまどいがみられました。
一方で、鑑賞者からは「マスクよりは響く」「声が届いた」「呼吸が楽そう」という肯定的な意見が大半でしたが、「フェイスシールドは反射して見にくい」など視覚的側面で音楽を楽しむことを妨げてしまうという意見もみられました。
次は、左右の間隔を1mに変更し、演奏者の方々に4列(舞台前方の列から13名・12名・11名・9名)の配置に移動していただきました。2m間隔と比較すると、視覚的には通常の演奏スタイルと近い距離感となりました。
まずは、マスク着用での検証です。
[1m間隔・マスク着用]
演奏者からは、マスク着用での違和感はあるものの「合唱っぽく歌える」「他のパートも聴こえる」などの意見が多く、歌う際の「安心感」が見受けられました。
また、鑑賞者からは「響きがこもる」「表情が全くわからない」など、2m間隔時と同様の意見に加え「2mより響きが集まってほんの少し発音も聞きやすい」といった肯定的な意見もみられました。
[1m間隔・フェイスシールド着用]
演奏者からは、2m間隔と同様「自分の声がフェイスシールドに反響し、周りと合わせようとしても聴こえない」などの聴覚的な「歌いづらさ」についての意見が多くみられました。
一方で、鑑賞者からは、2m間隔と同様の好意的なものが大半でした。間隔の差異については、特段の意見はみられませんでした。
5分の小休憩の後、ピアノ伴奏付き曲で同様に検証しました。
アカペラ曲とピアノ伴奏付き曲との比較については、事前に「ピアノ伴奏があることで、その音やテンポに合わせられる分、アカペラよりも歌いやすいのではないか」との意見があり比較検証してみましたが、演奏者と鑑賞者の両者とも、アカペラ曲と同様の意見が大半で、ピアノ伴奏がついたことによる違いについての意見はごく少数といった結果となりました。
以下に、各々の模様の写真を掲載します。
[2m間隔・マスク着用]
[2m間隔・フェイスシールド着用]
[1m間隔・マスク着用]
[1m間隔・フェイスシールド着用]
最後に、マスクもフェイスシールドも着用しない状態で2mの間隔を空け、演奏者間にビニールシートの仕切りを設置して検証を行いました。これまでの検証では、左右の間隔を1mと2mの2パターンで行いましたが、演奏者の方々の安全を考慮し、2m間隔のみの検証としました。
[2m間隔・無着用]※ビニールシートの仕切り有り
演奏者からは「(ビニールシートの仕切りがあっても)とても歌いやすいし、開放感があった」「客席にも感情がより伝わる気がした」「(ビニールシートの仕切りは)前後にもあると良かった」などの意見がみられ、歌う際の不便さは特に見受けられないようでした。
また、鑑賞者からは「ビニールシート無着用が一番良かった」「これで完全に防止できるのか…という不安もある」「2mビニールシートの響きは(響きの良いタクトであれば)ステージの特性として悪くない」といった意見がみられました。
【指揮者の所感】
フェイスシールド着用での歌唱は、自分の声ばかり聴こえて周りの音が聴こえにくい。マスク着用の方が聴きやすいため、歌いにくさはあるものの練習には適している。また、間隔については、合わせやすく歌いやすい距離は曲の性質で違うため、一概には言えないが、隣との距離が広くなればなるほど隣の声が聴こえなくなるので、狭い方が合わせられる。前後の距離についても同じことが言える。本番では、マスク無しでビニールシート等で仕切った状態で2m(ないしは1m)の間隔で歌えることが理想だが、現状では、歌いやすさよりも安全面に配慮した公演を開催するべきであると考える。
【全体的な感想】(アンケート結果・一部抜粋)
・本当に飛沫を抑えて歌うことは無理なことだと思うので、歌う側の歌いやすさや聴く方の聴きやすさを多少犠牲にしてでも、少しでも安全、安心な環境で歌いたいのが本音です。(演奏者)
・今回久しぶりに何もさえぎるものがない状態で合唱して、歌い手としても観客としても制約がある中での演奏には物足りなさを感じるのだなと再認識した。リスクの最大限の低減と、歌い手、観客双方の満足をできる限り両立できるような形に持っていければと思う。(演奏者)
・シールドの方が歌いにくそうに聞こえる(声の加減、バランスなど)。マスクは呼吸がしにくいと思われる(経験上、健康上身体にも負担がかかるのではないか)。マスクは表情が見えない。(学校関係者)
・マスクは表情が全く分からず、フェイスシールドは異様な感じがした。音楽は歌い手も聴く人も楽しくなければ意味がないと思う。1mはまだしも2mはよくない。(合唱関係者)
・初めてのことでしたので、今後考え方や感じ方も変わるかもしれません。変わらざる(変えざる)を得ないかと思います。演奏者の感想(納得すること多くありました)含め大変有意義な時間でした。ありがとうございました。(合唱関係者)
・貴重な実験でした。ただ、本番の演奏でマスクやシールドをしなければならないのはつらい…というか、厳しいのではないかと思います。練習時の参考にさせていただきたい。ありがとうございました。(学校関係者)
【まとめ】
今回の実証実験で、マスクとフェイスシールドの比較については、演奏者側と鑑賞者側の所感が正反対という結果となり、歌い手の方々の大半が、「フェイスシールド着用では合唱として成り立たない」と感じたということを知れたのは、一つの収穫だったのではないかと思われます。また、距離感や視覚的側面についても、実際に体験した方々からの意見を得られたことは非常に有意義でした。
今回の実証実験の結果を踏まえ、今後のコロナウイルス対策に係る館運営の参考にしていきたいと存じます。最後に、今回の実証実験にご協力くださった鶴岡土曜会混声合唱団の皆様に、心より感謝申し上げます。
実証実験の様子はこちらからご覧いただけます。